このページでは、イングランドにおける自閉症診断のプロセスを、NHS.uk・NHS England の全国フレームワーク・NICE ガイドライン(CG128 / CG142)などの公的資料にもとづいて解説しています。地域によって細かな運用は異なりますが、以下に示す流れが「標準的なパスウェイ」として公式に示されています。
1. 根拠となる2つの枠組み
イングランドにおける自閉症診断のプロセスは、様々な法律・政策・ガイドラインによって枠組みが定められていますが、大きく次の2つの層によって規定されています。
【臨床内容の基準】
NICE ガイドライン
NICE(National Institute for Health and Care Excellence:国立医療技術評価機構)が発表しているガイドラインで、自閉スペクトラム症の診断に関して「何を・どう評価すべきか」「どのようなケースを紹介すべきか」をエビデンスにもとづいて定めます。
子ども・若者は CG128、成人は CG142 が対象です。法的拘束力はありませんが、NHS はこれを考慮することが期待されています。

【支援アクセスの枠組み】
NHS England 全国フレームワーク
NICE ガイドラインを前提に、
各 ICB(統合ケア委員会)が自地域の自閉症アセスメントパスウェイをどう設計・委託するかを示します。「どこに住んでいても一貫した質のアセスメントを行うこと」が目的です。

【自閉症診断プロセスを支えるその他の重要な制度・仕組み】
Autism Act 2009:NHS と地方自治体に対し、自閉症の評価・診断・支援に関する法的義務を課しています。
NHS Long Term Plan(2019) および National Strategy for autistic children, young people and adults(2021–2026):診断までの待機時間短縮と、全世代の診断パスウェイ改善を目標として掲げています。
2. 診断に関わる多職種チームと地域ごとの体制
NICE CG128ガイドライン は、各地域に「autism team(自閉症チーム)」と呼ばれる多職種チームを設置することを求めています。このチームが、子ども・若者の自閉症アセスメント・診断を担う中心的な存在です。また、各地域には「ローカル自閉症パスウェイ」を管理する責任者を置くことが求められ、GP・学校・社会的ケアなど関係機関がこのパスウェイへのアクセス方法を把握できるよう周知することが求められています。紹介窓口は原則として一本化(single point of referral)とするよう推奨されています。
【autism team の中核メンバー(NICE CG128 より)】
小児科医または児童精神科医
(paediatrician / child and adolescent psychiatrist)
言語聴覚士
(speech and language therapist)
心理士
psychologist(自閉スペクトラム症の子ども・若者への経験を持つ)
必要に応じてアクセス可能なメンバーとして、作業療法士(occupational therapist)、専門看護師・訪問看護師、専門教員、ソーシャルワーカーなども含まれます。特別な配慮が必要な子ども(重度の視覚・聴覚障害、脳性麻痺、重度の学習障害、複合的な言語・精神障害、ケアを受けている子どもなど)のアセスメントにも対応できる体制が求められています。
このチームメンバーの細かな構成員は、自治体によって異なります。
※成人サービスへの移行期(transition)にある若者については、autism team が成人の autism team と合同でアセスメントを実施することを検討するよう CG128 は求めています。これは本人の知的能力にかかわらず適用されます。
2. 診断に至るまでの標準的なプロセス
《1》最初の気づきと相談(recognition):
多くは、保護者・学校・GP など身近な人が、子どもの発達や行動に気になる点を感じることから始まります。GP(かかりつけ医)や、5歳未満の場合は health visitor(乳幼児健康訪問員)、子どもがNurseryに通っている場合はSENCO(特別支援教育コーディネーター)・教師に相談します。NHS.uk は「自分や子どもが自閉症かもしれないと感じたら、GP や学校の SENCO に診断のためのアセスメントを依頼できる」と明記しています。
※NICE CG128: 保護者・養育者の懸念は、他の専門家と意見が異なる場合でも、常に真剣に受け止めることが求められます(1.2.2)

《2》紹介の判断(referral decision):
相談を受けたGP やSENCO等が必要性を認めれば、地域の自閉症アセスメントチーム(または関連するメンタルヘルス・発達サービス)へ正式に紹介されます
紹介するかどうかの判断では以下が考慮されます。
・気になる特徴の重症度と継続期間
・家庭・学校など複数の場面での一貫性
・子ども・若者と家族への影響
・保護者・本人の懸念の程度
・自閉症の有病率を高める関連因子(きょうだいに自閉症がいる、在胎35週未
満、ADHD、学習障害、ダウン症、脆弱X症候群など)
・他の診断の可能性NICE CG128 1.2.7: 良好なアイコンタクト・遊びの発達・以
前の「自閉症ではない」という評価があっても、自閉症を除外してはならない
NICE CG128 は、子ども・若者については多職種チームへの紹介を推奨し、紹介から3か月以内に診断アセスメントを開始することが望ましいとしています。
《3》紹介状の提出(referral letter)
紹介の際は、保護者・専門家が観察・報告した懸念等の内容が紹介状に含まれます。また、胎児期・周産期の記録、発達の節目(developmental milestones)、関連する既往歴・検査結果、過去のアセスメント情報なども含めることも求められます。
《4》紹介後のトリアージと準備と待期期間(after referral):
autism team の少なくとも1名によりトリアージが行われ、紹介内容をもとに自閉症診断アセスメントの実施要否を確認します。情報が不十分な場合は、学校・医療機関などから追加情報を収集します。NHS は「紹介後、アセスメントの予約が取れるまで数か月かかることがある」と認めており、待機中でも必要な支援を始めることができます(次セクション参照)。
アセスメントが決定されると、ケースコーディネーターが指名され、アセスメントの時期・順序について保護者・本人への情報共有が継続的に行われます。NICE CG128 ではアセスメントは autism team への紹介から3か月以内に開始することが求められていますが、NHSは「紹介された後、アセスメントの予約が取れるまで数か月待つことがある」と公式に認めています。待機中の選択肢(支援情報を集める、学校や職場と相談するなど)についても案内されており、必要な支援を開始することが出来るとされています。
《5》アセスメントの実施(diagnostic assessment):
NHS England フレームワークが定める「enhanced autism assessment」の基準では、少なくとも2人以上の適格な臨床家によるアセスメントとして、臨床インタビュー・行動観察・発達歴および第三者情報の統合・標準化ツールの使用・知的機能や感覚処理なども含む包括的・多角的な評価が必要であるとされています。診断基準としては DSM‑5 または ICD‑11 が用いられます。アセスメントから診断に至るまでの通院の回数は個人によって差があり、「1回または複数回の面談がある場合がある」と示されています。
特に子どもの場合のアセスメントには以下が含まれます。
・子どもの発達について(いつ話し始めたかなど)の詳細な聴取
・保護者と子どもの関わり方、子どもの遊び方の観察
・GP・保育園・学校から提出されたレポートの確認
・病歴の確認と身体診察
・必要に応じてチームメンバーが学校を訪問し、授業中や休み時間を観察

《6》結果の受け取り(communicating the results):
アセスメント終了後、結果をまとめたレポートが提供されます。レポートには「自閉症の診断基準を満たすかどうか」「どのような点で支援が必要か(社会的交流・コミュニケーション・行動・感覚など)」「本人の得意な点(strengths)」が記載されます。レポートは直接手渡されるか、郵送される場合があります。また、レポートについて話し合う別の面談の機会も提供されます。
自閉症は生涯にわたる状態であるため、このレポートは学童期から成人期にかけて継続的に活用されます。
その後、教育・福祉・職場などの支援につなぐポスト診断サポートへと移行します。
自閉症は生涯にわたる状態であるため、このレポートは学童期から成人期にかけて継続的に活用されるとしています。


《7》診断後の情報・支援(post-diagnosis support):
NICE CG128ガイドライン では、autism team が
子ども・若者・保護者に対して適切なサービスと
支援に関する情報を提供することを求めています。NHS England フレームワークも、診断の有無にかかわらず、また、保護者・養育者への情報提供と支援についても、パスウェイの重要な構成要素として
位置づけられています。

※すべての地域でこの流れを必ず踏むとは限りません。これは、あくまで大まかなガイドラインおよび標準的な道筋を示したものです。実際には地域の ICB が具体的なアセスメント・診断プロセスを設計しており、自治体やNHS トラストによってこの役割を担うチームの名前や細かな手続きは異なります。地域の具体的な情報については、Local Offer, GP または地域の NHS トラストにてご確認ください。
5. 待機中にできること
NHS は、アセスメントを待つ間でも次のサポートを早期に開始できると案内しています。
《学校・教育》:SENCO・担任に相談する
アセスメント前でも、SENCO や担任に相談して学校での支援を開始できます。学校での状況を整理しておくとアセスメント時にも役立ちます。
《医療》:GP に追加サポートを依頼する
例):GP を通じて言語聴覚療法(speech and language therapy)などセラピストへの紹介を依頼したり、アセスメントチームから支援グループの情報を得られる場合があります。
《地域》:地域の支援グループを探す
地域の支援グループに連絡を取ることができます。National Autistic Society のサービスディレクトリなどが参考になります。
《社会的ケア》:ニーズアセスメントを依頼する
地域の自治体(local council)にニーズアセスメントを依頼し、どのような支援が利用できるか確認することができます。
4. 子ども・成人それぞれの補足
子ども・若者(19歳未満):NICE CG128
NICE CG128 は、子ども・若者の自閉症診断について、学校の SENCO・GP・かかりつけの医療機関からの紹介ルートを定め、地域ごとにローカルパスウェイを整備することを各機関に求めています。学校ルートや CAMHS(児童・青少年メンタルヘルスサービス)との連携もパスウェイの要素です。
成人:NICE CG142
NICE CG142 は成人の自閉症診断と管理を対象とし、GP からの紹介ルートを中心に定めています。成人の場合も基本的な流れは子どもと共通ですが、発達歴の収集方法や関与するサービスが異なります。
6. 結果に納得できない場合
アセスメントの結果に同意できない場合の対応として次を案内しています。
- アセスメントチームに、なぜその診断に至ったかを尋ねる
- チームが別のチームによるセカンドオピニオンを手配する場合がある
- GP に依頼し、別のチームへの紹介によるセカンドオピニオンを得ることができる
- NHS 外の専門家(私費)によるアセスメントを選択することもできる
セカンドオピニオンでも同じ結果になることがある点は念頭に置いておくことが大切です(NHS.uk)。「自閉症ではない」という結果が出た場合や「もう少し年齢を重ねてから再アセスメント」と言われる場合もあります。
7. 目指している方向性:どこに住んでいても同じ質のアセスメントを
NHS England 全国フレームワークは、「どこに住んでいても、年齢・背景にかかわらず、誰もが一貫した質の高い自閉症アセスメントを受けられること」を目指しています。各 ICB(統合ケア委員会)がローカルパスウェイを設計・委託する際の共通基盤であり、NICE ガイドラインと整合的であることが求められています。
この記事はイングランドに適用される公的資料にもとづいています。スコットランド・ウェールズ・北アイルランドでは異なる制度が適用されます。また、地域の NHS トラストによって具体的な手続きは異なる場合があります。
【参考文献】
- NHS.uk – How to get an autism assessment
- NHS.uk – What happens during an autism assessment
- NHS England – A national framework to deliver improved outcomes in all-age autism assessment pathways
- NHS England – National framework and operational guidance for autism assessment services
- NHS England – Update on Learning Disability and Autism Programme
- NICE – Autism spectrum disorder in under 19s: recognition, referral and diagnosis(CG128)
- NICE – CG128 Recommendations
- NICE – Autism spectrum disorder in adults: diagnosis and management(CG142)
- NCBI Bookshelf – 2021 surveillance of autism (NICE guidelines CG128, CG142 and CG170)